知識産業創出と情報社会を目指した広範囲の技術の開発と集積を

取締役研究開発本部長 
牛尾眞太郎Shintaro Ushio

環境激変の中に調和を

地球は今、変容をしております。政治、経済、文化の領域ではボーダレス化とグローバル化が一段と進み、一方ではナショナリズムの色合いが濃くなってまいりました。社会生活の面では生活の利便化に比例してエネルギー問題、産業廃棄物処理問題、地球温暖化・公害・酸性雨問題等の地球規模での環境保護問題が大きくクローズアップされてまいりました。

さらには医療技術の高度化に支えられて高齢化が進行し、年齢構造が変化してきたことに伴い、労働環境や雇用形態にも大きな変化が出てまいりました。またよく言われていることですが、個人主義の台頭、価値観の多様化・複雑化など、個性化が一段と進んでまいりました。

このような社会動向の激変・流動化の中で、21世紀へ向けて、あらゆるレベルでどのように調和をとるかが重要な課題となってまいりました。

具体的には、地域間の調和、経済と文化との調和、人間と自然との調和、個人と社会との調和、人間とシステムとの調和をどのようにとってゆくかが今後の世界規模での課題であります。個と集団それぞれの欲求を満たす新しい社会システムを構築しなければなりません。

このような社会変革を『情報』という観点から見てみましょう。

重厚長大から軽薄短小へ、ニーズの個性化・多様化と製品のライフサイクルの短命化、商取引のディジタルマネー化とグローバル化、情報化、知識産業化が進んでいます。これらは情報処理技術の進歩(これは半導体技術の革新に伴うパソコン(PC)など各種装置の高性能化と普及、さらには通信インフラストラクチャの整備に大いに支えられております)に裏打ちされており、産業構造は大きく変革しております。

新しい調和をとるに当たっては、情報の民主化、アクティブコミュニケーションの推進、ヒューマニティへの回帰をいかに図るかがキーでありましょう。情報の民主化は情報の透明化・可視化を推進し、地域間・部門間の格差を低減し、業務のターンアラウンドタイムの短縮化を可能にします。しかし情報の民主化はなによりも、情報と人間のインテグレーション、情報と情報のインテグレーションの推進を可能にし、『創造性』の向上に寄与するものであります。

自ら手本を作らねばならない時代に

世界がこのように激変しております中で、日本に目を向けてみますと、日本が今なさなければならないことが明確になってまいります。

日本は文化や技術を国外から導入し、日本人に合うように上手に加工し、活用することで発展してまいりました。しかし、先人の指摘にありますように、日本はテンプレート(いわばお手本)を活用した『追い付け、追い越せ』の時代から、テンプレートのない、自らテンプレートを創出しなければならない時代になりました。しかもディスインフレーションの時代であります。

この時代に求められる最も大切なものは『創造性』であります。『創造性』を高揚するためには教育、日本的風土、雇用形態を含む経済環境などいくつかがキーファクターとなるでしょう。風土の面では、時間はかかりますが、過当競争、同質化競争、無コンセプトからの脱出を図ることが大切であります。クリエーションを大切にする風土の醸成の仕掛け作りと実行の努力が必須であります。ベンチャー精神への理解と育成の環境作りも併せて推進しなければなりません。

さらに『創造性』にとって大切なファクターは情報化でありましょう。創造性の中核能力(コア・コンピタンス)は『知』でありますから、知識社会における創造の軸である『知』の強化をせねばなりません。そのためには情報産業化・知識産業化の推進が必須であります。個々人の『知』の創造の触発と方向付けをし、その『知』を組織化することによって、知的生産性が向上します。つまり、情報武装化による『知的創造性』の向上と、その結果としての一層の情報化の進展をみることができます 注1)。こうして良いサイクルを回すことによって、国家レベルにおいても、企業レベルにおいても、また国民生活においても、格段に体格・体質が向上し、将来を展開して行くことができるのであります。

広範囲の技術の開発と集積を

通商産業省のデータによりますと、当社の属します情報・通信領域の市場は、1993年には31.9兆円であったものが2000年には65兆円、2010年には実に121兆円となり、規模、成長率ともに大きな市場になると予測されております 注2)。

先に述べましたように、日本が世界でしかるべきポジションを得るためには、情報に関わっている企業が果たさねばならない責任も多積しておりますが、世界規模でオープン化、デファクト化が急展して行く中で、創造力を向上し、国民のコンセンサスを得ながら、得手不得手を明確にし、開発環境の整備をしつつ、国家的規模で産官学の分担とコワークを密にして、マルチメディア時代に向けた研究を推進して行かなければなりません。

先端技術特集によせて

マルチメディア時代における高度情報社会の構築のためには、少し具体的に申し上げますと、コンピュータ技術や通信ネットワーク、伝送、移動通信等の技術等の伝達インフラストラクチャに支えられた高度な知的通信技術、データベース技術を含む情報コンテンツ生成(オーサリング技術)・蓄積技術、ヒューマンインタフェースのための研究、さらには言語情報の知的処理や意味理解等の知的情報処理技術、音声認識技術、画像・映像認識技術の研究などの多岐にわたる研究を推進して行かなければなりません。またサービス端末技術(高度携帯情報端末やPC等)の研究も推進しなければなりません。デバイス系では電子素子、光素子等の高速化・高機能化 注3)や、ヒューマンインタフェースデバイス等の高度化が必須であります。情報システムの中で取り扱うメディアも文字、データ、音声、画像を含むマルチメディア化、マルチモーダル化しております中で、人とシステムとの入出力関係をより優しく、より知的にと、人間とシステムとの新しい関わり方を求めて行くことが大切であります 注4)。

情報化社会と一言で言っても、その情報を利用する集団の種類・規模、利用目的・規模によりまして、情報の形、内容は多岐にわたっております。利用者のニーズに合わせたアプリケーションシステムの提案・提供、ソリューション提案のための研究も大切であります 注5)。

要素技術・デバイス領域の例をみます。私たちの先輩は文字を発明し、その文字により情報を蓄積し、伝達する手段を獲得しましたが、いまや文字のプリンティング技術 注6)や文書処理技術や知識処理技術を融合した文書認識技術を実用化し、活用する時代になりました 注7)。

本”先端技術”特集では、上記の既特集関連技術を除き、情報通信システム構築に必要な”個別技術”をいくつか取り上げました。

音声は人類が獲得した最も有効な情報交換手段であります。当社におきましては、特定話者、不特定話者の音声の認識方式の研究を鋭意推進いたしております。また、当社の音声合成技術力は高いものと自負しており、テキスト音声変換、音声認識と合わせて、今後の活用を目指しております。機械翻訳システムの研究も高いレベルにあり、PCあるいはネットワークの中でご活用をいただいております。

その他、本特集では次世代の光通信ネットワークシステムに関係した研究、情報コンテンツ生成のためのエージェント指向オーサリングシステム、データベース検索システム等のシステム寄りの研究から、地球環境保護に関係の深い海洋観測のための低周波音源や水中音波伝搬解析技術と大規模シグナルプロセシング技術、システム構築に必要な媒体搬送技術やマイクロコントローラ、さらには光通信システム用各種デバイスなど、情報通信システム構築に必要な技術の中から比較的実用に近いものの一端を取り上げました。

各記事を通して、情報時代をマルチメディアコミュニケーション時代として位置付け、その時代のキーカンパニーとして社会に貢献して行こうとする当社の姿勢をご理解いただき、皆様方の情報システム化推進のご参考になれば幸甚であります。

注1)山本正隆編「知力工学のすすめ」、オーム社、1992

注2)通商産業省産業構造審議会総合部会基本問題小委員会報告書 (1994年6月)による

注3)沖電気研究開発第165号,Vol.62,No.1(1995年1月)、 『光通信特集』

注4)沖電気研究開発第155号,Vol.59,No.3(1992年7月)、 『ヒューマンインタフェース特集』

注5)沖電気研究開発第154号,Vol.59,No.2(1992年4月)、 同第158号,Vol.60,No.2(1993年4月)および 同第164号,Vol.61,No.4(1994年10月)、 『アプリケーションシステム特集』

注6)沖電気研究開発第157号,Vol.60,No.1(1993年1月)、 『プリンタ特集』

注7)沖電気研究開発第156号,Vol.59,No.4(1992年10月)、 『文字認識技術特集』

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