巻頭言
知識産業創出と情報社会を目指した広範囲の技術の開発と集積を
テキスト音声変換装置の小型・低コスト・低消費電力化を検討した。従来はDSPによって行っていた波形重畳法や波形転送の処理による負荷を軽減するために, 内部処理の並列化, DMA(直接メモリ転送)機能の使用など, ソフトウェアや装置の構成の改良を行った。これにより, CPU2個の構成を1個に削減した。この改良したソフトウェア・装置構成でカードサイズの超小型テキスト音声変換装置を試作し, 従来通りの性能での動作を確認した。
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不特定話者連続音声認識方式の研究
梁川 厚行・清水 星二・前田 忠彦
当社では,1993年にシステム化方法論「METHOD/ACE」を開発した。このたび,企業情報システムにおけるダウンサイジングの潮流に応えるため,このシステム化方法論「METHOD/ACE」を核としてクライアント/サーバシステムに対応するシステム構築支援体系を用意した。これは,方法論・技法・CASEツールの各々についてクライアント/サーバ機能の強化を行い,この3つを密接に連携させ実効性のあるシステム構築支援体系としたものである。また,産業界の標準化の動きとも整合をとり有効性を高めている。
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任意の文字列が検索可能な全文検索システム
池田恵美・和田久美子・新谷義弘・長坂 篤
FTS(Full Text Search system)は任意の文字列の検索が可能な高速全文検索システムである。FTSはソフトウェアのみで実装され, 形態素解析が不要なため検索処理が軽く, マシン間の移植が容易である。文字の組の並びをインデックスとすることにより, 任意の文字列の検索が可能で, 検索洩れがない。また,検索論理式, シソーラス機能などの柔軟な機能を備え, 検索文字列の長さに大きくは依存しないので, 安定した検索速度を得られている。
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エージェント指向オーサリングシステムExtempore
長坂 篤・新谷義弘
マルチメディアアプリケーションの開発用システムとして, オーサリングシステムExtemporeを開発した。Extemporeは, 複数のメタファを統合して採用することにより, より広いクラスのアプリケーションの開発に適用可能とするとともにエージェント機構を導入することにより, インタラクティブな処理の簡潔な記述や能動的なマルチメディアオブジェクトの実現等の新しい機能をも実現している。
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ユーザフレンドリな機械翻訳システム: PENSEE
永田淳次・山本秀樹
機械翻訳は翻訳品質の高さが重要であることはいうまでもないが,ユーザの文書処理環境から手軽に簡単に使用できることも重要である。日英・英日機械翻訳システムPENSEE(パンセ)は, 移植性の高い翻訳エンジンとユーザインタフェースを明確に分離しているため,DTPシステム, ワープロシステム, 電子メールシステムなど, 多種多様な環境から, 機械翻訳機能を利用することが可能となっている。本稿では, ユーザが日常使用しているシステムから簡単に使用することができる機械翻訳システムPENSEE‐GV, PENSEE for Windows,Net PENSEEを紹介する。
紙幣や帳票, 用紙などの紙葉類の分離搬送機構では非線形要素が多く, 自動調整機構の構成が困難であるため, 従来より調整を手動で行っている。
本稿では, 現金自動取引装置の無人運用時間の増加に伴い, より高い信頼性が要求されている紙幣分離搬送技術を取り上げ, 簡単な構成で, しかも分離搬送機構の基本特性の把握程度で, 高精度の自動調整を実現でき, 長期に渡り安定な搬送特性を維持できる媒体搬送機構のファジィ制御モデルを提案し, 実験によりモデルの妥当性と有効性を確認した。
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放物型方程式(PE)法による海中音波伝搬の時間領域での取り扱い
石渡恒夫・尾崎俊二・松下 勝・賀谷彰夫・中埜岩男・中村敏明
PE法は, 水平方向に水温分布や水深が変化する海洋中の音波伝搬特性を, 波動理論に基づき計算する手法である。遠距離伝搬では大きな俯仰角の音波の寄与が無視できるとしていくつかの近似を用い,波動方程式を取り扱いやすい形にしている。
本稿では, PE法を用いてパルス状の時間波形を解析し, 伝搬時間の誤差について評価を行った。その結果, 次のことがわかった。 (1)伝搬時間の誤差は水平方向の差分刻み幅のほぼ2乗に比例して増大する。(2)伝搬波の水平方向波数と放物近似における基準波数との差が大きくなるに従い, 3次関数に近い傾向で, 伝搬時間の誤差が増大する。
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組み込み用32ビットRISCとその応用
河井 淳・中澤 修・槙 和彦
ASIC組み込み用32ビットRISCプロセッサファミリ, ASIC開発環境, およびソフトウェア開発環境を開発した。小型高性能, 低消費電力と柔軟なシステム構成の提供を目指した。また, ASICとソフトウェアを並行して開発するためのハードウェア・ソフトウェア・コデザイン環境を構築した。
本稿では, 32ビットRISC基本仕様, 開発環境, および応用ASSPについて述べる。
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大規模システム用高性能シグナルプロセッサ(ASP-3)の開発
江原輝文・荒牧愛三・渕田康穂・山平和人
大規模なディジタル信号処理システムに対応できる, 高性能シグナルプロセッサ(ASP‐3)を開発した。ASP‐3は, ディジタル信号処理に特化したコンピュータであり, リアルタイム処理を得意とする。大規模なセンサなどから時々刻々発生する多量のデータを入力し, 数百個を越えるDSPチップで信号処理し, 結果を出力できる。さらに, 処理能力の向上と同時に, 信頼性の向上, 消費電力の低減, 小型化, 種々の応用に対応できる柔軟性, 開発の容易性, などの要求も満たすことができる。これらを実現するために, 最新のハードウェア技術, ソフトウェア技術, 標準のオープン指向技術を採用した。また, アプリケーションプログラムや外部装置との適切なインタフェース, 機能分担を図った。
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次世代光通信ネットワークシステムの研究
鹿嶋正幸・中平佳裕・長谷川幹夫・川原正人
情報ネットワークは, マルチメディアに対応して高速広帯域かつ柔軟性が要求される。これを実現するために, 光技術による光スイッチング技術, 光波長多重技術, 光信号処理技術を用いてネットワークを構成することが考えられる。
本稿では, 光通信ネットワークの主要技術となる高速スイッチング(光スイッチ)を用いた光ATM交換ノードと, 波長多重(WDM)を用いた光波長多重LANの研究, および中継網の光パスの管理技術の研究について報告する。
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ATMネットワークにおけるトラヒック制御技術
石田寛史・鈴木幸彦・小沼良平・井上 洋
ATMネットワークにおける3つのトラヒック制御技術, VP(Virtual Path)容量制御, CDV(Cell Delay Variation)対応多重化制御, VBR(Variable Bit Rate)対応AAL(ATM Adaptation Layer)制御について, その方式と有効性を述べる。VP容量制御は, VPの容量を適切に制御することにより, 呼損率の低下を可能とする制御である。CDV対応多重化制御は, CDVと呼ばれるセル間のゆらぎを考慮したセル多重化を行うことにより, セル廃棄率を従来の50%に落とすことができる制御である。VBR対応AAL制御は, セルレベルでのエラーチェックを省略することにより, 映像等のリアルタイム系VBR情報の実時間性の保証を容易にすることができる制御である。
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W-CDMAシステムの方式研究
徳田清仁・川辺 学
広帯域CDMA(W‐CDMA)システムは、公衆回線並みの音声品質と従来の狭帯域CDMA(N‐CDMA)システム以上のシステム容量を有する。W‐CDMAシステムでは、劣悪な無線伝搬路においても高音声品質を維持するために伝搬路の時変性に追従可能な送信電力制御方式、ダイバーシチ受信方式、誤り制御方式を採用し、さらに、耐雑音特性を有する音声符号化方式も採用している。また, システムの大容量化を実現するために, 干渉雑音にロバストな拡散変復調方式と効率的な干渉除去方式を採用している。本稿では、高品質、大容量W‐CDMAシステムを実現した方式の概要を述べる。
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超磁歪材料を用いた海洋音響トモグラフィ用低周波音源
吉川 隆・河守章好・坪井友宏・和泉 仁
海洋の水温分布等を音波を用いて観測する海洋音響トモグラフィでは, ある2点間を伝搬する音波の到達時間を計測している。広域観測をするには, 低周波で大出力の音源が必要である。音源を1000m以上の深度に係留して使用するので, 水圧に耐え得る音源構造でなければならない。我々は, 駆動材料として超磁歪材料を用いて音源の低周波, 大出力化を図った。これによって圧電材料等を用いた場合の半分程度の大きさで実用的な音源を構成することができた。また音源として耐水圧性をもたせるために, 圧力コンペンセータによるガス圧補償方式を採用した。音源性能を実海域で評価した結果, 等価回路を用いた設計値とよく一致していた。
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生体現象へのフラクタル・カオス論的解析法の応用
斎藤 稔
生物には, フラクタルやカオスといった非線形系特有な現象が広く観察される。本研究では, 小脳のプルキンエ細胞における樹状突起の発生パターンと細胞内電位の発火パターンの2種のパターンに対してフラクタル・カオス論的解析法を確立した。前者では, 発生段階における樹状突起の複雑さの変化をフラクタル次元で評価し, 樹状突起が成熟していく過程を定量化することができた。後者では, 電位発火パターンを生成する多数のイオンチャネル間における秩序性をフラクタル次元で評価し, そこに見られる高い秩序性を定量化することができた。
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人工格子による高性能磁気デバイスの研究
山根治起・前野仁典・小林政信
人工格子は自然界に存在しない物質を作製し, 新しい機能性や高性能化を実現する技術であり, 材料開発の中心的役割を担う。人工格子の特性を引き出すためには, 原子レベルでの構造制御が不可欠であり, 実際に作製した材料の構造を知ることは高性能化への指針となる。我々は, X線回折法による構造評価技術を確立し, 固溶および非固溶系の人工格子の解析を行った。その結果, 積層周期長のゆらぎは, 2種類の人工格子とも約0.5原子層であり同程度の高い周期性を有しているが, 界面合金層は, 固溶系は3.5原子層, 非固溶系は2.0原子層と状態系の違いを反映した結果となった。また, 人工格子磁性材料の研究において, 現在最も注目を集めている巨大磁気抵抗に関する検討を行い, 約20%の非常に大きな磁気抵抗変化を得た。さらに, 高感度のスピン・バルブ型人工格子による磁気ストライプ情報の読み取り試験を行い, 良好な再生結果を得た。
マルチメディア時代に入り, プリンタは写真などの中間調画像を高品質で出力する性能が要求されている。中間調画像を出力する方式として, 従来は疑似中間調表現方式が多く用いられてきたが, 画像の階調数を多く取れば画像の解像度が低下する問題があった。
当社では, LEDの発光時間変調による多値記録方式を用い, 16階調の中間調を表現できる階調LEDヘッドを開発した。
本稿では, LEDの発光時間変調による多値記録方式で必要とされる階調数と解像度の設定を視覚の階調弁別特性から論じ, 本方式によるLEDドライバのIC化について述べる。さらに本方式を用いたヘッドの発光, 印字特性を評価し, 300 DPI の解像度で良好な印刷品質が達成されることを確認した。本階調LEDヘッドに用いた技術は今後のフルカラー化に適用可能であり, コストパフォーマンスの良いヘッドを提供できる。
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ドライエッチング法によるサブクオータミクロン銅配線の形成
五十嵐泰史・山野辺智美・伊東敏雄
デバイスの微細化高密度化が進み, 配線の幅がサブクオータミクロンに達すると, アルミ合金配線では十分な信頼性が得られなくなってくる。また, 配線抵抗も高くなるため配線による信号遅延が顕在化してくる。銅はアルミ合金に比べ, 高いエレクトロマイグレーション耐性が期待でき, かつ抵抗は60%程度になることから, 次世代の配線材料として期待が高い。しかし, その実現に際しては, 微細加工が困難, 酸化や腐食しやすいなどの問題を解決しなければならない。当社では, 線幅0.2μmの配線が加工でき, 同時に銅の酸化, 腐食および基板への銅の拡散を防止できる高温ドライエッチング法を開発した。さらに, この方法で加工した配線は, アルミ合金配線の100倍の信頼性と, 約60%の配線抵抗を達成した。
半導体レーザを用いた高速繰り返し光短パルス発生技術は, 将来の大容量光通信システムの構築に向けて重要である。いくつかの光パルス発生法の中でも, 受動モード同期法は外部からの電気的変調を必要としない方式であり, したがって素子の電気駆動による帯域に制限されずに超高速光パルスを発生させることが可能な, 優れた技術である。
本稿では, 我々が開発したモノリシック受動モード同期DBRレーザを用いた超高速繰り返し光パルス発生実験について述べる。また, 同素子を用いて世界で初めて1テラヘルツを越える繰り返しをもつ光パルス列の発生に成功したので, その詳細についても報告する。
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大規模導波路型光マトリクススイッチ
岡山秀彰・川原正人
光マトリクススイッチは, 光信号をそのまま回線交換する光交換システムの中で、システムを構築するための基本デバイスの1つと考えられている。本稿では実用的な光交換システムを実現する上で必要となる, 光マトリクススイッチの回線数を増大することを検討し, 実現した32×32型のデバイスについて述べる。動作電圧±12V, 挿入損失18dBの特性を得た。
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異種半導体基板の直接接合と光デバイスへの応用
和田 浩・上条 健
光電子集積回路実現のために, 異種半導体を同一基板上に集積化する試みが盛んに行われている。そのための技術の1つとして, 我々はこれまでに直接接合に関する研究を行ってきた。本稿ではInPとGaAsおよびInPとSiの直接接合について, 最近の研究結果を紹介する。InP/GaAsの組み合わせでは, GaAs基板上に作製したInP系半導体レーザで室温発振を得ることに成功した。InP/Siでも接合温度を最適化することにより, 結晶性を劣化させることなく接合できることが明らかになった。本技術は光電子集積回路を実用化するための要素技術の1つとして, 今後発展が期待される。
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高温超伝導フラックス・フロー・トランジスタ
文 忠民・阿部仁志
フラックス・フロー・トランジスタは, 高温, 高速, 低消費電力で動作する超伝導デバイスとして世界中で注目を浴びている。最近, 当社ではYBCO高温超伝導を用いてこのデバイスを試作し, 液体窒素温度範囲でのトランジスタ動作を確認することができた。本稿では, 高温超伝導におけるボルテックスの走行状態の制御とトランジスタの動作原理を論じる。まず従来の作製方法を述べ, 斜面型の弱ブリッジの提案を行い, 作製したトランジスタの特性を従来の構造のものと比較する。最後にフラックス・フロー・トランジスタのエレクトロニクスの応用展望を紹介する。
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位相シフト法による0.17µmゲートGaAs FET技術
大島知之・山本伸介・角谷昌紀・木村 有
位相シフト法を基本とする, 耐熱性ゲート金属W‐A/の, 微細加工技術を開発した。本プロセスにより形成した0.17μmゲートvGaAsMESFETは, ゲート長の高い寸法制御性により, 優れた均一性を示した。また, Cイオン注入によるp層の導入により, サブハーフミクロンゲート領域においても, 十分に短チャネル効果を抑制することができた。DCFLインバータにおいては, 電源電圧2Vでの単体遅延が10.4ps/gate, 消費電力が2.34mW/gateと, ゲート長の微細化が, 素子の高速, 低消費電力化に有効であることを確認した。さらに, ディジタルICへの応用として試作した8:1マルチプレクサでは, 安定な10Gbit/s動作を達成することができた。
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重合トナーによるトナーリサイクル印刷プロセス
石原 徹・酒井雅人・村野敏郎・伊藤克之
(株)沖データが開発した電子写真プリンタの印刷プロセス, 球形トナーリサイクルシステム (STRS) について述べる。本方式では球形重合トナーを使用し, クリーニングローラによって感光ドラム上の転写残留トナーを電気的にクリーニングし, 一時的に蓄積を行う。さらに用紙間や印刷終了時にこの蓄積したトナーを再度感光ドラム上に戻し, 現象ローラで回収し再使用する。クリーニングローラのクリーニング能力および現象ローラの回収能力について, 実験値と計算値が合致することを示し, 本方式の可能性を示した。また, 帯電ローラにトナーが付着しても帯電能力が保持され, 本方式の適用が可能であることを示した。
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高調波電流抑制型電源の開発
佐藤秀夫・鈴木喜代志・高橋秀典
東北沖電気(株)では、高調波電流対策の規制に対応するため, アクティブフィルタ方式による高出力容量の高調波電流抑制回路の実用化技術を確立した。これに伴って, アクティブフィルタに接続するスイッチング電源(DC‐DCコンバータ)の高電圧入力化, スイッチング周波数の高周波化による高効率, 小型化を行って, 電源装置全体のアクティブフィルタによる容積の増加分を押さえるとともに出力の高容量化を実現した。本電源の開発により, 高調波抑制対策ガイドラインの規格をクリアし, 実用性を確認できた。