塾長コラム「Yume塾便り」第79回
~ JEITA主催IMSセミナー開催 ~

(前列左からJIN真野氏、OKI千村塾長、後列左からOKI野中氏、JIN尾﨑氏)
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2023年12月11日に一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)主催の標準化セミナーにおいて、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)に関するセミナーを開催しました。司会進行は、JEITA標準化運営委員会委員長でもあるOKI 千村塾長が行い、講師には一般社団法人 Japan Innovation Network(JIN)の尾﨑 弘之氏、真野 毅氏をお招きし、日本企業からイノベーションを興すためのIMSの最新動向を解説いただきました。セミナーの概要をご紹介します。
JEITAでは、毎年その年のトピックである標準化課題をテーマに国際戦略・標準化セミナーを開催しています。今回は、ISO/TC279で議論中のイノベーション・マネジメントシステムISO 56000シリーズをテーマにJINのお二人に講演いただきました。
IMSは、組織的にイノベーションを興すための知識集約型のマネジメントの仕組み

イノベーションというと「技術革新」と訳されることが多くありますが、それだけがイノベーションではありません。イノベーションとは「新しい価値を具現化すること」であり、その方法はプロダクトの場合も、プロセスの場合もあります。また破壊的なイノベーション(ラディカル)なものばかりでなく、漸進的なイノベーション(インクリメンタル)なものも立派なイノベーションです。全ての企業活動がイノベーションの対象です。
そのため、IMSを一言で定義するならば、「組織的にイノベーションを興す知識集約型のマネジメントの仕組み」であると言えるでしょう。
2024年には認証規格発行予定
IMSについての国際標準規格は、既に2019年にISO 56002(手引き)が策定されています。日本では、JIS Q 56002として2023年9月に制定されています。現在、認証規格ISO 56001を審議中であり、2024年末には発行予定です。
マネジメントシステムと言うと、製造業においては品質マネジメントシステム(QMS)を思い浮かべる方が多いと思いますが、QMSは確実に品質を担保するためのマネジメントの仕組みです。一方、IMSは顧客、実現性などがまだわからない未来のビジネスについて不確実性をマネジメントする仕組みである点が異なります。IMSでは、システム思考に基づき、失敗することを認め、試行錯誤を通して仮説の不確実性を下げていくものです。
ISO 56002の概要をJINのIMSコンパスを用いて紹介します。
4章では組織の内外の状況を把握し、その上で5章ではトップがリーダーシップを発揮し、6章でイノベーションの計画を立案、8章でイノベーション活動のプロセスを規定し、試行錯誤の活動を行います。7章では全社的な支援体制を構築し、その結果を9章で評価、10章で改善を繰り返すための要求条件を示しています。
日本企業としてIMSに取り組むポイント
講演後には、JEITAの標準化運営委員会のイノベーション・マネジメント研究会で主査を担当しているOKI野中 雅人氏から日本企業としてIMSに取り組む上でのポイントについて講師へ質問がありました。その際の主なポイントを紹介します。
質問1:ISOのマネジメントシステムと言うと、企業では文書化の負荷を懸念する声があるが、要求条件の面でIMSはQMSと異なるのでしょうか?
回答1:ISOで国際交渉する上で、認証する団体と企業の間で議論になっているのが、その点です。IMSでは、文書化のハードルが上がり過ぎないよう配慮して要求条件について議論していますが、マネジメントシステムにおいて文書化は重要なエビデンスであり、必要最小限の文書化は必要です。
質問2:IMSの国際標準規格において、ISO 56002(手引き)とISO 56001(認証規格)の違いはどのような点でしょうか?
回答2:ISO 56001は現在DIS(Draft International Standard)の段階であり、内容は議論中のため、現時点の情報として回答します。ISO 56002とISO 56001で基本的な要求条件は変わりませんが、以下の2点がISO 56001では変更、追加の予定です。
1)「イノベーションのビジョン」の設定は必須ではない
ISO 56002では「イノベーションのビジョン」の設定は必須でしたが、自治体などソーシャルな目的のための機関では「ミッション」として定義するケースもあり、「ビジョン」の設定はマストではなくなる予定です。
2)「チェンジ・マネジメント」の追加
ISO 56001では、「変革」を計画的に行い、マネジメントする「チェンジ・マネジメント」の項目が追加されています。これまでの組織運営とは違う原則が求められるIMSにおいて、組織変革を計画的に行うことが要求されます。


質問3:IMSの認証はいつ頃から始まるのでしょうか?
回答3:ISO 56001は2024年末に発行予定ですが、その後、認定団体が選出され、認証機関が選定になるので、認証の開始時期がいつ頃になるのかはまだ具体的にはわかりません。これまでの実績から規定発行後2~3年で審査ができるようになると考えられます。
まとめ
JEITAでは、IMSに取り組む企業や導入を検討中の企業によって研究会を発足し、日本企業としてIMSに取り組む意義やポイントを整理しています。OKIの事例も紹介し、企業間で勉強しています。今後、IMSに取り組む企業同士が連携し、日本企業からイノベーションが次々に興っていくことを期待しています。
なお、ISO 56002に基づくイノベーション・マネジメントシステムの解説書籍を日本規格協会から2024年1月に発行しました。
一般社団法人Japan Innovation Network 著
「わかりやすいイノベーション・マネジメントシステム“新しい価値実現”のシステムづくりをISO 56002で理解する」
OKIの事例も紹介されています。是非、ご覧ください。
(2024年1月24日 OKIイノベーション塾・塾長 千村 保文)