OKIグループの商品・サービスにより課題を解決された
お客さまの声や、共創への取り組みをご紹介します。
日本航空株式会社(以下JAL)が羽田空港でトライアル運用中の遠隔操作ロボット「JET(ジェット)」。JALとOKIは2020年12月、お客さまへのサービス品質のさらなる向上に向けてJETにOKIのリアルタイムリモートモニタリングシステム「フライングビュー」を搭載し、お客さま応対の実証実験を実施しました。その結果、空港スタッフによるJETの遠隔操作性が飛躍的に向上することが実証され、働き方改革と、より安全で高品質なお客さまサービス提供への期待が高まりました。
4台の魚眼カメラと映像合成部、表示部で構成されます。カメラの映像から周囲360度の俯瞰映像を合成し、正眼に補正された映像を自由な視点から見ることにより、広域のシームレスなモニタリングが可能です。カメラ映像の合成を映像処理能力の高いFPGA(※1)上で行うことにより、小型・省電力で、高画質の映像処理をリアルタイムで実現します。
デジタルイノベーション本部
イノベーション推進部
JALイノベーションラボ
落岩 麻衣氏
羽田空港第1ターミナルでは「JET(ジェット)」という名のロボットが、JALスタッフの一員としてお客さまをご案内しています。コロナ禍で対面による接客に不安感が伴う現在、グランドスタッフの遠隔操作により案内業務を行うJETは、非対面で安全に高品質なサービスをご提供できる存在として期待が高まっています。
遠隔操作ロボット「JET」
JETの開発はコロナ禍以前の2018年、JALの働き方改革の一環としてスタートしました。その狙いを、日本航空株式会社 デジタルイノベーション本部 イノベーション推進部 JALイノベーションラボの落岩麻衣氏は「ライフステージに応じて育児や介護などで在宅を希望するスタッフも、空港に出勤しなければ働けないため、場合によっては離職せざるを得ないケースも少なくありませんでした。そのようなスタッフに向けて、ロボットを介して自宅から遠隔で、知識や経験を職場で活かしてもらいたい、社会との接点を引き続き持ってほしいという願いのもと、トライアルを進めています」と話します。
空港企画部
旅客・制度企画グループ
アシスタントマネジャー
カムチャイパイ クンラウィッチ氏
デジタルテクノロジーを活用した業務効率化、働き方改革の施策としてAI搭載の自律型ロボットではなく遠隔操作のロボットを採用した理由について、空港企画部 旅客・制度企画グループ アシスタントマネジャーのカムチャイパイ クンラウィッチ氏は「人財とテクノロジーの融合によりJALとしてのおもてなしのクオリティを維持しつつ、人的リソースの有効活用と、業務オペレーション改革を同時に成し遂げたいと考えました」と説明します。
ゲーム機のコントローラーを用いたJETの遠隔操作
トライアルを続ける中で改良を重ね、現在は2代目となるJETが羽田空港第1ターミナルにおいて搭乗手続きに関するご案内や、お客さまからのお問い合わせ応対で活躍しています。
落岩氏は従来の課題について、次のように話します。「現時点では空港内のバックオフィスからグランドスタッフが交代で、モニター越しにゲーム機のコントローラーを用いてJETを遠隔操作しています。その際、人やモノとの適切な距離を保ちながらお客さまの状況に応じた的確なご案内を実施するために、JETの周囲の情報をより正確に把握することが課題でした。空港内には小さなお子さまや大きなお手荷物をお持ちのお客さまも多くいらっしゃいますし、自動チェックイン機などの設置物も多くあります。時には狭い通路を移動することもあり、JETの目の位置に搭載されたカメラ映像のみでは、背後や周囲状況が分かりづらく、安全性を保つために保安要員を立てて運用していました。この課題の解決策を模索するなか、OKIから『フライングビュー』を紹介していただきました」。
カムチャイパイ氏は「フライングビュー」を初めて見た時の印象と、期待した点をこう話します。「『フライングビュー』の360度の視界の広さと、距離感を把握しやすい高精度の映像クオリティに驚きました。これがJETに搭載できれば人や物との相対位置がこれまでよりも明確に分かり、背面や足元など把握が難しかった部分の視認も容易です。操作者のみでJETの安全な運用が実現するとともに、在宅やほかの空港で勤務するスタッフでも操作できるようになるのでは、という期待がありました」。
こうして2019年末、JALとOKI、そしてロボット開発メーカーの3社によるJETへの「フライングビュー」搭載に向けた検討が始まりました。3社は「フライングビュー」のカメラおよび通信機器のJETへの実装や通信方法などの協議と開発を進め、2020年12月、羽田空港においてお客さまへのサービス品質のさらなる向上を目的とした実証実験を行いました。
JETのトライアルを進める背景や「フライングビュー」との実証実験の狙い・成果のインタビュー動画(2分)をご覧いただけます。
実証実験では、「フライングビュー」のカメラや通信サーバーをJETに外付けで搭載。人や設置物の存在や距離の直感的な把握、人の表情および手荷物の識別、お客さまの搭乗券やパスポート記載内容の確認など、多岐にわたる検証を行いました。
お二人は今回の実証実験で得られた成果を、次のように話します。「従来のJETのモニター映像に『フライングビュー』の4つのカメラから合成された俯瞰映像が加わったことで、操作者はリアルタイムに正確な周囲情報の把握が可能になり、遠隔からでも安心して操作できるようになりました。操作者の心理的な不安が払しょくされ、今後の運用に確かな手ごたえを感じています」(落岩氏)
「JETには働き方改革への効果に加えて、ニューノーマルな時代に求められる非接触でのサービスの有効性にも期待が高まっています。今年、JALは英国の航空会社評価機関であるSKYTRAXの「Covid-19 Safety Rating(※2)」で最高評価の5スターを獲得しましたが、その際、『日本のおもてなしと先端テクノロジーを融合した非接触での安全・安心なサービス』と、高い評価をいただきました」(カムチャイパイ氏)
JALは本格的なJETの運用展開を目指し、今後もOKI、ロボットメーカーと共同で開発を進めていくとのこと。カムチャイパイ氏は、これからの展望を次のように語ります。「現在は操作画面や搭載機器、ネットワークの融合やデザインなど、JETへの『フライングビュー』実装に向けた技術開発を進めています。将来的にはJETを各空港に配備し、在宅スタッフ、さらにはほかの空港スタッフが遠隔操作できるようにしたいと思っています。そうすることでお客さまへのサービス品質を高めながら、働き方改革に加えて人的リソースの全体効率化も実現したいと考えています」。
最後に落岩氏は、OKIへの期待を次のように締めくくりました。「OKIとはこれまでも自動チェックイン機などで長くお付き合いさせていただいていますが、今回の協働、共創を通じて改めて先端技術力の高さと、円滑にコミュニケーションをとってくださる点に非常に助けられました。今後も引き続きJETへの開発協力に加えて、さまざまな領域でのソリューション提案に期待しています」。
2021年5月掲載