パッケージデザインの世界でさまざまなヒット商品をてがけてきたcosmosのアートディレクター・内田喜基さん。内田さんがデザインチェックを行う新しいプリンターとして導入したのが「MICROLINE VINCI C941dn」(以下、「C941dn」)です。パッケージデザインのおもしろさや、ほかのグラフィックデザインとの違い、そしてデザインワークに欠かせないプリンターに求める条件についてうかがいました。
パッケージデザインという特殊な仕事 もともとは広告デザインをてがけてきた内田さん。パッケージデザインとの深い関わりは2005年頃に遡ります。そのときが、内田さんにとってパッケージ+店頭デザインに関わった初めての仕事だったそうです。 内田さんが依頼されたのは「定番商品のリニューアル」でした。ここで内田さんは、それまでマス広告で培ってきた経験と、そこで身につけた視点を活かして、店頭とパッケージデザインに取り組んでみようと考えました。 「クライアントに求められる一番の課題は店頭で目立つこと。でも僕は店頭での見えかた、POPや什器との兼ねあい、雑誌やポスターといったマス広告との関係など、多面的な方向からデザインを考えます。マス広告のロジックをパッケージに活かす考えかたは、それまでにない、新鮮なものだったようです。パッケージや店頭デザインを専門としているデザイナーさんのノウハウと僕の経験をかけあわせていくことで、オドロキのある、よりいいかたちでデザインすることができました」 一般に、デザイナーが同じ商品に長く関わっていると、どこかデザインにも"お約束"が生まれてしまい、クリエイティブジャンプが起きにくくなりがちです。 しかし内田さんのような、広告畑で経験を積んだデザイナーが加わると、そこに違う発想と視点が生まれ、新しい提案が出されます。これが、内田さんがてがけたパッケージにも化学反応を起こしました。 つまり内田さんの仕事は、膠着し、柔軟性に欠けてしまっていた"パッケージデザインの方程式"を崩すことだったというわけです。 「僕はデザインという大きな視点でパッケージを考えますが、発注者は、生産コストの兼ねあいもシビアに見ています。決められたコストの中で最大限に魅せるものをつくる。そのギリギリのラインを攻めていくことが、パッケージデザインの醍醐味ともいえますね」
数量限定で販売されたホームフレグランス。左はプラスチックボトル、右は詰め替えボトル。店頭ポップや什器などもデザインし、当初の予想より早く完売してしまったそう。定番商品がデザインを変えて限定品として世に出ることで購買欲をかき立てる。その購買のフックになるのがパッケージデザインの力で、内田さんの腕の見せどころ。
プレゼンテーションの鍵は「店頭をイメージできるリアルさ」 内田さんのプレゼンテーションは店頭、そして商品そのものと、複合的な見せかたのシミュレーションをしたうえでスタートします。こうして新商品のコンセプトを明解化すると、クライアントとの共通言語が生まれ、商品の個性が浮き彫りになるそうです。 だからプレゼンテーションで見せるデザインは、徹底的に「リアルさと見栄え」にこだわって準備します。そこで予算を惜しんでは、取れる仕事も逃してしまう場合もあるからです。 「基本的に、プレゼンテーションでは光沢のあるアート紙やコート紙しか使いません。これは、クライアントに与える第一印象の見ばえを何よりも重視した結果です。普通紙は高級感が出せないし、パッケージ用途ではまず使わないですね」 マス広告や店頭POPは紙に印刷して展開するので、見本も社内のプリンターで実物をつくり、プレゼンテーションの現場に持ち込みます。この手法は一般的なグラフィックデザインの世界と変わらないでしょう。 パッケージデザインの分野で違うのは、プレゼンの段階で試作品も持参する、という点です。そこで問題になるのが、パッケージデザインの形状が箱、ボトル、袋と多岐に渡り、素材も紙やビニール、プラスチックとさまざまであること。そして使用色も、プロセスカラーだけではなく特色が加わり、データのつくりかたもサンプル制作も複雑でコストと時間がかかっているということです。 当然、プレゼンテーションのために試作品をつくる場合は、さまざまな方法が採られています。たとえば、透明なボトルにカラーインクで写真を印刷する場合はOHPシートに印刷して実物を作成。こうすることで、紙に印刷された平面の展開図ではわからない、ロゴの配置や内容物との色の関係など細かい部分がわかります。C941dnが導入されるまで、大部分のデザインチェックを社内のカラーレーザープリンターで行ってきたそうです。
コンパクトや口紅からパッケージまでデザイン。製造方法、印刷方法、素材もさまざまですが、プレゼンではそれぞれのダミーをつくる必要があります。クロマテックを使ってロゴを転写したり、ケース表面にラインストーンをつけて、そのバランスを見たり、多面体なケースのために紙で試作するなど、モックづくりには多様な手段が使われました。
缶ボトル商品。「ケープ」のような定番商品の6年ぶりのリニューアルで大変光栄な仕事、とのこと。リピートユーザーのために以前のデザインを踏襲しつつ、フレッシュさも感じるデザインで新規顧客の開拓を狙いました。