OKIグループの商品・サービスにより課題を解決された
お客さまの声や、共創への取り組みをご紹介します。
竹中技術研究所 オフィス
環境配慮型建物として注目される「ネット・ゼロエネルギービル」などの建築を通じ、サステナブル社会の実現を目指す株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)。同社は、竹中セントラルビル サウスの開業を機に、成長し進化するスマートビルを実現する「ビルコミ®プラス」の機能として、人の位置や姿勢、快適性を推定する「ヒューマンファクターセンシング」の実装を目指しました。今回、AI解析にOKIのAIエッジコンピューター「AE2100」を採用。360度カメラとAI解析で人の快適性を可視化、省エネに役立てる仕組みを構築し、2022年10月より本格運用を開始しました。
オフィス天井に設置した小型360度カメラの映像から、人の位置や姿勢、服装などをOKIの「AE2100」を用いてエッジでAI解析し、オフィス内の人の分布や時刻ごとの検出人数の変化を推定します。空間の使われ方に基づいて、利用者の快適性を確保し、省エネルギー・省CO2となる建物管理の実現を目指します。
株式会社竹中工務店
技術研究所 未来・先端研究部
先端数理グループ 主任研究員
髙井 勇志氏
1899年の創立以来、時代を象徴する建物を数多く手がけてきた竹中工務店。スマートコミュニティ推進にあたり、「人を中心とした」まちづくりを通して心と地球にちょうどいいサステナブルな社会を、さまざまなステークホルダーとともに目指しています。
竹中工務店 技術研究所 未来・先端研究部 先端数理グループ 主任研究員の髙井勇志氏は、「当社は建設業者ですが、その本質は、人の暮らす空間をつくる会社です。技術研究所では、急速に変化する時代に応じたさまざまな分野に対する研究開発を行っており、社内外の研究者が集い、オープンイノベーションを加速する場となっています。その中で、私は、物理空間の『もの』、サイバー空間の『情報』、社会空間の『人・コミュニティ』の3つの融合を特に意識して、未来の技術開発を行っています」と語ります。
同社は、これまで数々の技術を駆使して、ビルや競技場などで究極の環境配慮型建物として注目されるネット・ゼロエネルギービル(※1)(以下、ZEB)や、それに近い性能を有する建物を数多く実現してきました。また、スマートビル実現のために、オープンな通信規格を採用したクラウド型データ・プラットフォームである「ビルコミュニケーションシステム®(以下、ビルコミ)」を開発。このビルコミに、環境の変化・技術変革に即応する「IoTセンサーネットワーク」、拡張性・選択性のある「ファシリティメニュー」、ユーザーの利便性を追求した「アプリメニュー」を加えて構成された、スマートビル実現のためのソリューションパッケージ技術として「ビルコミプラス」を開発し、建物の脱炭素化・運用管理に関わるソリューションを提案しています。
髙井氏は、今回のプロジェクトの経緯を、次のように話します。「さまざまな先端技術と共に成長し進化するスマートビルと位置付けた竹中セントラルビル サウスの開業に向けて、ビルコミプラスの機能の一つとして、人の動きをセンシングして位置や姿勢、快適性を推定する『ヒューマンファクターセンシング』の実装を計画しました。そしてその実現に向け、カメラで取得した画像データをAIで解析、エッジで処理する最適な仕組み作りを模索していました」。
竹中工務店 髙井氏に、従来の課題や「AE2100」の魅力を語っていただきました。[1分28秒]
AI エッジコンピューター「AE2100」
髙井氏は、このヒューマンファクターセンシングの実装基盤にOKIの「AE2100」を選定した理由を、次のように話します。「OKI主催の展示会で紹介を受けたのがきっかけで、24時間365日稼働できるシステムとしての信頼性と、シンプルかつ低コストでAIを実装可能な点を評価し、採用しました。『AE2100』はハードウェアとしての信頼性に加えて、非常に小型でエレベーター横など建物内の狭小スペースに設置できるのも利点でした。また情報セキュリティやプライバシー保護の観点から、画像データのAI解析を建物内のできるだけカメラの近くで行い、完結させる必要があります。
シンプルなネットワーク構成ができていれば、トラブル対応しやすいことに加えて、クラウド上に画像データを送信する必要がないため、通信距離が短くなり、処理も早く、通信コストも抑えられます。さらに、この仕組みのサービス化、お客様へのプロジェクト展開を想定する当社としては、長年、社会インフラを支えてきたOKIであることに加えて、構築だけでなく運用時のメンテナンスやサポートをOKIの子会社であるOKIクロステックが担ってくれる点も、魅力でした」。
さらに髙井氏は、同社のAI開発との親和性も採用の決め手と語ります。「『AE2100』が、当社の求める技術仕様としてディープラーニングの推論環境を提供するインテル社のOpenVINO™ ツールキット(※2)と、ビルコミがプラットフォームとして採用しているMicrosoft Azureに対応していたことも、開発を円滑に進める上で重要なポイントでした。開発に際してはOKIのエコシステムであるAIエッジパートナーシップの枠組みから、AIエッジパートナーとして参加している株式会社コンピュータマインドを紹介してもらい、協力いただきました」。
竹中セントラルビル サウス 外観
(撮影:山本育憲)
導入に先立ち、同社は千葉県印西市にある技術研究所で実証実験を実施。社員が実際に四季ごとの着衣を身に付けたテストを繰り返し、問題なく実装できることを確認した上で、竹中セントラルビル サウスの開業に合わせて、2022年9月に20台の「AE2100」と100台の360度カメラを全フロアに技術実証導入しました。
天井の360度カメラで取得したオフィス画像
ヒューマンファクターセンシングで取得できる情報および活用効果について、髙井氏は次のように解説します。「天井に設置した360度カメラの画像をAIで解析し、各フロアのエリアごとの人数、姿勢、着衣量、照度などのデータを取得、ヒューマンファクターとして推定します。着衣量は、建築環境で用いている『clo(クロー)値』を測定します。これは着衣の熱抵抗値の単位で、衣服の保温力を数値化するものです。どれくらい服を着込んでいるかにより、人の感じている温熱感を推定することで、快適な空調温度設定を実現します。照度についても、一般的な照度計の明るい・暗いだけでなく、人がどれくらいのまぶしさを感じているのかを推定し、最適な照明設定を実現。これらにより、利用者の快適性を確保しつつ、省エネ・省CO2を両立します」。
各フロアに設置されたAE2100
髙井氏はその導入プロセスを、次のように振り返ります。「全体工期との兼ね合いで、構築期間は1カ月程しかありませんでした。カメラ設置位置は設計者である私が決定し、実際の設置や施工、設定調整などはOKIクロステックに実施いただきました。中でも、カメラ設置後のキャリブレーションには苦労しました。キャリブレーションとは、カメラの取り付け位置(各フロアの基準点からの3次元座標)や姿勢(カメラの光軸の向きや回転)を確認・調整する作業で、正確なデータ収集に欠かせません。今回設置した100台のカメラのキャリブレーションについてもOKIクロステックにきめ細かく対応いただき、非常に助かりました」。
検出した人の分布の可視化
時刻ごとの検出人数の変化
こうして本格稼働が始まったヒューマンファクターセンシング。髙井氏は「実稼働したことで、人の状態と連動した空調や照明制御による省エネ効果に加えて、人が多く利用するエリアを検出することによるプロアクティブな施設管理・運用など、得られたデータを建物管理に活用するさまざまなアイデアが生まれてきています」と、その効果を語ります。
そして最先端技術のショーケースとしての役割も担う同ビルでは、すでに具体的なプロジェクト展開に向けた取り組みも始まっていると、髙井氏は話します。「オフィスビルはもとより大学、病院、商業施設など、具体的な案件相談も増加しています。たとえば大学では、授業のハイブリッド化に伴い講義室やコミュニティスペースが学生にどのように利用されているのかを知りたいというニーズがあります。そしてその場にいる人たちの快適性が数値化されることで、スペースの有効活用や最適な省エネ、CO2削減を実現するエビデンスとなり得ます。当社としてもこのデータを新築や改修提案に活用することで差別化を図り、人がより心地よく過ごせる空間の実現に貢献できると考えています」。
「今回、『AE2100』の活用でビルコミプラスのヒューマンファクターセンシングが実現できたことは、プロジェクト展開に向けた確かな足がかりとなりました」と話す髙井氏。OKIに期待することとして、次のように締めくくりました。「私は研究職であり、設置や施工、継続したメンテナンスまでを一人で担当することは困難です。今回、OKIとOKIクロステックとの協業で、その点をカバーする仕組みまで構築できたことは大きな成果でした。これからさらに多様化する社会においては、お客様ニーズを先取りし、より付加価値の高い提案が求められます。これからもOKIとOKIクロステックの両社には、当社が目指すサステナブル社会の実現に向けたパートナーとしての共創、協働に期待しています」。
2023年1月掲載