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IPテレフォニー

プロモーション コラム 「IPコミュニケーションの明日を読む」

第49回: NGN普及には「北風よりも太陽戦略」を

[2008年6月26日掲載]

執筆: 千村 保文(Yasubumi Chimura)
沖電気工業株式会社(OKI)
情報通信グループ  セキュリティ・アンド・モビリティカンパニー
バイスプレジデント
兼 コーポレート戦略室  上席主幹
兼 OKI  IP電話普及推進センタ(IPTPC)  センタ長

最近、NGN(次世代ネットワーク)に関して、講演の依頼をよくいただきます。VoIP(Voice over Internet Protocol)に関する業務に永く携わってきた経験と、標準化に関わっている立場でNGNを簡単に解説してほしいという主旨です。しかし、これらの講演を行うたびに「日本のNGNは本当に普及するのだろうか?」と心配になってしまうことが多々あります。それは、NGNに対するネガティブな質問や意見があまりに多いからです。

例えば、以下の質問をまずいただきます。
Q1. NGNはインターネットに比べて何が良いか?
Q2. 今の電話などの機能は継承されるのか?

これらの質問に対して、以下のように回答しています。
A1. 回線認証などのセキュリティと帯域保証などの機能が強化されます。電話も今よりも音質が良くなり、テレビ電話もできるようになります。電話の他に映像やWeb系のデータサービス、放送サービスも統合されるでしょう。端末も固定でも、移動でも使えるようになると考えられます。
A2. 緊急通報など電話の機能は基本的に継承されます。

すると、次のような遣り取りになります。
Q3. セキュリティなどの機能は特定事業者だけのサービスか?
Q4. 今のインターネットでも端末やサーバの工夫で、同様のことができるのではないか?

そこで、以下のように回答します。
A3. NGNの機能は国際的に標準化されています。NGNのサービスの特長は「オープン」であることです。これらの動きは世界的に広がるでしょう。
A4. 端末ごとの工夫では、利用する端末やソフトのメーカによって、操作方法や性能が異なります。NGNは標準化されることで、簡単に使えるようになるでしょう。

このような流れになると、仕舞いにはこんな質問・意見が来ます。
Q5. 音声・データ統合やマルチメディアサービスは、今までにも何度も試みられたが、あまり普及しなかった。NGNでは何故うまくいくと言えるのか?
Q6. 特定の事業者だけのサービスならば、パソコン通信の大規模版と変わらない。本当にオープンになるのか?
Q7. テレビは家で見ればいい。回線にセキュリティがあっても、所詮はインターネットのWebなどを見る目的が主では?それならばセキュリティは向上しない。

このあたりになると、私は寂しい気持ちになってきます。これらの意見は極端な意見かもしれません。しかしユーザには、情報通信に対して、以下のような気持ちがあるようです。
「もう何度も裏切られた」、「これ以上、複雑な機器はいらない」、「ネットは所詮危ないもの」

このような気持ちも分からなくはありません。しかし、ちょっと待っていただきたい。

世界中で、ネットワークの次世代に対する議論は非常に盛んに行われています。その多くは、いかに前向きに社会に貢献するか?自らの国や企業の生産性を上げ、地球環境に貢献するか?・・・といった前向きな内容が多いのです。しかし、日本では(私の講演だけかもしれませんが)、NGNへのネガティブな議論が多いように感じます。このような意見を聞きますと、事業者や開発メーカは、より強固なセキュリティや信頼性ある商品を開発しつつ、マーケットが拡大することを期待します。一方でユーザは安心で安価な商品が出てくるまで、じっと待つようになります。そして、市場は拡大しないまま、他国が先行し、その商品が市場に入ってくる・・・。

このような負のスパイラルを思い描きながら、イソップ寓話の「北風と太陽」を思い出しました。ご存知の方も多いと思いますが、あらすじは以下のとおりです(※1)。

「北風と太陽は、旅人の上着をどちらが脱がせるかで勝負をした。北風が力いっぱい吹いて旅人の上着を吹き飛ばそうとするが、旅人は反って上着をしっかり押さえてしまい、吹き飛ばすことはできなかった。一方、太陽は心地よく燦燦と旅人を照らし、旅人はあっさりと上着を脱いでしまった。この勝負は、太陽が勝った」

この寓話は、アメリカのテレビでの字幕(CC:クローズド・キャプション)導入の経緯でよく語られます(※2)。アメリカでは1980年代にNCI(National Captioning Institute)がCC方式の字幕を開発しました。障害者の間では普及に期待が持たれましたが、機器の価格は高く、特定の機種や放送でしか採用されておらず、普及にネガティブな意見(北風)が集中しました。しかし、アメリカの障害者団体は、政府やテレビ受像機のメーカに対して、「太陽戦略」で望みました。「クローズド・キャプションは素晴らしい。こんなに良いものを開発していただいて感謝します。ぜひ、もっと広く利用できるようにしてほしい」と言うような(正確な表現ではありませんが、こういう内容を)感謝状を贈ったと言われます。これにより、1990年にADA(Americans With Disabilities Act of 1990)法が成立し、アメリカではクローズド・キャプションの搭載が義務化されました。こうしてアメリカのテレビでは字幕機能が標準搭載になり、クローズド・キャプションのチップの価格は数セントまでに抑えられました。実際は、ここまで単純な話ではなかったのでしょうが、新しい技術が登場した際に、課題を挙げ一気に解決を図る(北風戦略)か、新規技術に感謝を示し、利用しながら、良いものにしていくか(太陽戦略)には、意見が分かれることでしょう。

しかし、NGNは世界的な流れです。NGNで使われているIPの技術をまず使ってみて、良いところは感謝を示し、もっと便利で、もっと使いやすいサービスに広げていけないものでしょうか?

そこで、私から提案があります。

北風と太陽

NGNの適用領域として期待されているテレワークや医療機関・公共機関等でのNGNの試行機会をもっと増やせないでしょうか?街で、区役所で、病院でちょっとお試しができないでしょうか?そこで試行された方々が、政府やメーカに「感謝状」を贈ったらどうでしょうか?端末に「サンクス(感謝)」ボタンや「オピニオン(ちょっと意見)」ボタンを設けて、リアルな意見を集めるのも一つの方法でしょう。

「こんなに便利なものをありがとう」、「ただ、もっと沢山のヒトに使ってほしい」、「もう少し価格が安くなれば」、「友達や会社でも推薦します」・・・。このような建設的な意見を基に、日本のNGNを見直していけば、世界で本当に便利なものになるのではないでしょうか?

  • ※1 参考文献:ウィキペディア(Wikipedia) 「北風と太陽」
  • ※2 参考文献:関根 千佳、『「誰でも社会」へ―デジタル時代のユニバーサルデザイン』、2002年11月22日発行、岩波書店
  • このページに記載されている会社名、製品名は各社の登録商標または商標です。

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