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最近の社会貢献活動から
国際手話通訳として国際協力事業団の事業に協力
〜レポート 研究開発本部R&D支援チーム 宮本一郎〜


 
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講義「日本の聴覚障害者組織と成り立ちと・現状と課題」で国際手話通訳をする宮本さん(写真右)と講師の全日連・松本昌行氏(同左)

 1999年10月3日から11月21日までの約50日間に、国際協力事業団が主催する『ろう者のための、アジア大洋州リーダー研修』が行われました。同事業団大阪国際センター(大阪府茨木市)が中心となり行われたもので、私は「国際手話通訳」協力として参加しました。今回が3回目です。

○国連と、研修プログラム

 国連が「完全参加と平等」を掲げ、1983年にスタートさせた『国連・障害者の十年』は、1992年に終了しました。しかし、終了当時、アジア太平洋地区の障害者生活環境の改善の必要性と、問題事情が顕著という事実指摘がなされました。その結果、継続課題として、ESCAP(1)に引き継がれ、翌1993年より「アジア太平洋障害者年の十年」がスタートしました(〜2002年)。

 『国連・障害者の十年』の成果提案をまとめた『障害者の機会均等化に関する標準規則』は、1993年、国連に採択されました。その中の「規則21 技術・経済協力の項」(2)で、研修活動は、同じ障害者同士の方が、援助ニーズの的確な把握が可能であり、障害者自身の意欲向上という事実上(3)、望ましいと提言されています。この提言に則って、「アジア太平洋障害者年の十年」の一策として、ろう者同士の研修プログラム『ろう者のための、アジア大洋州リーダー研修』が1995年にスタートし、現在に至っています。(今回で5回目)
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同上。写真の奥、一番右は、宮本さんと交代で国際手話通訳をされている方

○国際協力事業団

 国際協力事業団(Japan International Cooperation Agency、以後JICAと略す)の組織機構は、国内外へわたって、本部以下、国内19機関、在外事務所56機関に編成されています。国内19機関のうちの12機関は、国内12ヵ所の研修センターとなっています。(1999年12月現在)

 政府開発援助(以後、ODA)は、次の「3つの柱」を通じて、様々な方面へ展開されています。このうちの「1. 2国間贈与」は、JICAが担当し、ODA対象国へ技術協力と無償資金協力を行っています(4)

 「3つの柱」:
  1. 2国間贈与
  2. 2国間貸付
  3. 国際機関に対する出資・拠出

 技術協力には、専門家派遣、青年海外協力隊やシニア海外ボランティア事業、ODA対象国研修生の日本国内研修・指導などがあります。最近では、一般国民の間にも国際協力への関心が高まりつつあり、地方自治体レベルの国際協力や、NGO・NPO(5)を通じての、新たな技術協力の体系が築かれています。

 「ODA対象国研修生の日本国内研修・指導」、このプログラムはいろいろあり、本部と国内12ヶ所それぞれが独自で担当しています。例えば、前述の青年海外協力隊やシニアボランティア事業は、JICA本部内の青年海外協力隊事務局が担当し(6)、『ろう者のための、アジア大洋州リーダー研修』は、大阪国際センターが担当しています。このように、国内12ヶ所の研修センターは、それぞれが独自の研修プログラムを持ち、ODA対象国をはじめ、世界各国から研修生・講師等を迎えています。

 『ろう者のための、アジア大洋州リーダー研修』に関する予算、施設提供、研修生の世話は、大阪国際センターが担い、研修のための見学や訪問先の選定、通訳協力依頼・調整、国内滞在日程調整は、「(財)全日本ろうあ連盟」が全面的に協力しています。

 対象となる研修生の条件は、前述の通り、アジア太平洋地区のODA対象国に住み、且つ、手話コミュニケーションが可能な、聴覚障害を持つ成人とされています。研修生募集案内は、各国政府機関を通して、各国のろう者団体が行います。こうして研修生候補者を募り、毎年8名前後が選出されています。

 1999年度は、モンゴル、中国、マレーシア、フィリピン、カンボジア、ネパール、以上各1名、タイ2名の、計8名でした。

 研修生には、関西と関東各地で、日本のろう者の労働・法律・家庭などの現状を視察いただき、運動の取り組み方や経過についていろいろ知っていただくこと、また、帰国後、自国の運動や施策を具体化し、建設的に取り組んで、ろう者生活の向上を促すことを目的としてもらっています。

  主な見学先として、都立ろう学校、埼玉県所沢市・国立リハビリテーション職業センター、国及び市自治体レベルの手話講習会、京都府・いこいの村(7)、様々な職業のろう者、ろう従業員を多く採用している会社、ろう者生活用具(お知らせランプ等)製造販売、全日連・ろう協会などを訪問します。

 この波及効果としては、1.アジア太平洋各国のろう者との親睦を深める 2.ろう者士気の向上 3.アジア太平洋各国のろう者事情を理解 4.援助支援行動の意欲促進 等々が挙げられています。
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同講義で質問するフィリピンの研修生

○「(財)全日本ろうあ連盟」

 『ろう者のための、アジア大洋州リーダー研修』に全面的協力を頂いている、「(財)全日本ろうあ連盟」(以後、全日連と略す)は、傘下に都道府県レベルの47団体が加盟しています。第二次大戦終戦後の1947年に、群馬県伊香保温泉において、改めて発足されて以来、1998年に50周年目を迎えます。(8)

 全日連は、ろう者を含む聴覚障害者の人権尊重および文化水準向上と、その福祉の増進を目的とした運動に長く取り組んで来ています。また、アジア太平洋諸国をはじめとする国際的な関わりも次の通りです。

1959年 世界ろう者連盟(the World Federation of the Deaf)に加盟。
1991年 東京において、世界ろう者会議第13回大会(9)が開催。(52ヶ国 7千人)
1994年 アジアろう者リーダー研修会が初めて開催。
1995年 JICA主催「ろう者のための、アジア大洋州リーダー研修」がスタート。
1997年 アジアろう者基金が開始

 東京での世界ろう者会議を機に、日本のろう者の多くは、視野を海の向こうへ向けるようになり、国際的な関わりが活発化してきました。この、1991年は、日本のろう者が国内から国外へ視野を向けるという転換期であり、且つ、アジア太平洋諸国への援助が本格的に取り組まれるようになった年です。

○国際手話と、その通訳

 『ろう者のための、アジア大洋州リーダー研修』や、世界ろう者会議をはじめ、国際的な交流の場での、ろう者同士のコミュニケーション方法は、国際手話(IS : International Sign)と米国手話(ASL : American Sign Language)が現在、主流となっています。前者は、会議などの不特定多数が集う場や、初対面などの初期段階で使われることが多く、後者は、米国手話を知る者同士に限られています。

 国際手話は、新しいコミュニケーションの試みであり、模索と究明が続けられています。国際的な集いが開かれる度に発生し、且つ、様々な国のろう者間で(無意識的に)表現などが決められるという流動的な性格でありながらも、数日経てば、意味意思伝達が十分機能するようになることが、国際手話の特徴です。ジェスチャ(身振り)で通じていると思われがちですが、手話の特性などの共通的部分が存在しているためと思われます。しかし、言語学的な究明が進んでいないので、ここでは述べないことにします。

 国際手話の通訳は、どのように行われるのでしょうか。

 1999年7月にオーストラリア・ブリスベン市で開催された「世界ろう者会議第13回大会」では、舞台の上手に、地元の豪州手話(Auslan : Australian Sign Language)の通訳者が立ち、下手に、国際手話通訳者が立ちました。講演と通訳の進行は、ほぼ同時に進められました。
他に、国際ろう者スポーツ大会(10)では、国際手話が可能なろう者が、進行役や司会を務めることが多いです。

 『ろう者のための、アジア大洋州リーダー研修』では、関東から私を含む5名、関西から3名、計8名が、国際手話通訳の協力に名乗りをあげました。
講義での進行につきましては、講師が音声日本語で話される場合と、手話で話される場合の2通りがあります。まず、後者は、「講師→国際手話通訳者→研修生」という順番で、研修生の理解が進められて行きますが、前者の場合、国際手話通訳担当のろう者には、音声日本語が聞こえないので、講師の次に、音声日本語から日本手話へ通訳するための、手話通訳者が介入して、「講師→手話通訳者→国際手話通訳者→研修生」という順番となります。研修生からの質問などは、その逆の順番で、講師へ伝えることになっています。

○通訳苦労、失態

 国際手話の通訳で苦労することは、習慣、人生哲学の他に、微妙なニューアンスの違いです。最近、言語学や心理学分野で聞かれるようになっている、メタファーやモダリティーというものです。例えば、英語の「blue sky」が「(月)夜」という意味だったり、日本人が頻繁に「I'm sorry.」を使ってしまうような、文化的習慣的差異のために、意味意思伝達の通用や使い方、行動に戸惑うことがあります。

 私の失態経験では、JICA主催研修とは別の話となりますが、フランスでの「この家は、大きい」でした。「大きい」、この手話表現は、世界全て同じ表現となっていると考えていいでしょうし、どこかの国で表現が違っていても大抵は通じます。例えば、「この家は、大きい。」を、日本手話で表現すると、一般的には、次の通りになります。

日本手話:これ、家、大きい

フランスろう者がこの表現を見ると、次の通り、解釈が行われるらしいのです。

フランスろう者の解釈:これ、家、大きい、丸い

つまり、「大きい」表現について、日本ろう者は、「(比較的に)大きい」と解釈していますが、フランスろう者は、「(比較的に)大きい、且つ、丸びを帯びている」と解釈するのです。従って、フランスろう者の頭中では「この家は、大きくて、丸びている。」とされ、丸くない家を見ると、変に思ってしまうのです。

 JICA主催研修期間中の通訳協力時に留意しなければならないことは、イスラム教やヒンズー教などの宗教的理由により、食事が制約されている研修生に対して、食事情報を提供することです。JICA主催研修期間中の食事時間は、通訳業務外となっていて、且つ、JICA関係施設内ならJICA職員が食事情報の提供を行うようになっていて、国際手話通訳の協力者は関わらなくていいようになっています。しかし、施設外や、JICA職員の手では回らない時は、国際手話通訳の協力者が手伝うことがあります。食事情報の提供とは、料理の中身や料理方法の説明ではなく、まず、豚肉が入っているかどうか、又は、何の肉を料理したものか、この情報の提供に気を配らなければなりません。初めて関わった頃の話ですが、手が回らず説明が十分行かなかったために、イスラム教の研修生が豚肉を食べてしまうことがあったのです。その研修生がショックを受けて、憎しみを私へ向けるばかりで、私が幾らお詫びしても、なかなか治まりませんでした。

○今後、

 JICA主催の研修に関わって、毎度のことですが、一番実感していることは、日本からの援助が「お金」を出しては、解決されないことです。通訳の協力者、現場での技術指導者、会議・運動に対する助言者などの、働きかける人材の存在によって、発展途上国のろう者自身の労働生活が向上されるようになります。この向上によって、ろう者集団の向上に繋がります。それは、ろう者だけでなく、聴者(11)も該当できると思います。

 手話通訳の協力を通して、テレビや新聞では得難い経験知識、例えば、アジア太平洋の問題の様々な奥深さを見極めることができたことが、私にとって一番大きな宝です。

 この時点で終わりとせず、問題追求と、国際協力と向上を繰り返しながら、地球規模の友情を深めて行きたいと思っていますと共に、この私自身の経験を、新たな手話通訳協力者の育成に活かせるようにかんばりたいと思っています。

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国際手話通訳の協力者全員に送られた、研修生(タイ市内のろう学校美術教師の方)からの記念イラスト


(参考文献)
・国際協力事業団ホームページ http://www.jica.go.jp/

(1) ESCAP:国連アジア太平洋経済社会委員会
(2) 障害者の国際協力事業への参加」(第2フェーズ)報告書pp6-7,
(3) 国際協力事業団「地球規模の課題 障害者福祉」
  「障害者の国際協力事業への参加」(第2フェーズ)報告書
(4) 国際協力事業団「How?日本の援助の仕組みは?」
(5) NGO:非政府団体  NPO:非営利団体
(6) 国際協力事業団「2000年、JICAの大変身」
(7) 京都府・いこいの村:ろう老人ホーム。現在、全国で2ヶ所のみ。
(8) 第二次大戦以前は、別の名称の全国規模組織が存在したが、戦時中混乱により、閉会された。
(9) 世界ろう者会議は、4年に1回開催。昨年7月に、オーストラリアにおいて、第13回大会が行われた。
  参加は、90ヶ国 1800名。
(10) 国際ろう者スポーツ大会:夏季と冬季があり、4年毎に1回、持ちまわりで開催されている。来年、2001年7月に、イタリア・ローマ市で夏季大会が開催される予定。冬季大会は、昨年の1999年2月に、スイスで開催。オリンピック後に開催される「パラリンピック」は、聴覚障害者が含まれていないことが、意外と知られていない。
(11) 聴者:健常者、健聴者とも呼ばれている。ここでは、聴者と表記しました。

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