沖電気工業株式会社(社長:篠塚勝正、以下沖電気)は、このたび無線通信用パワートランジスタとして世界最高レベルの増幅特性を持つ、T形ゲートリセス構造の窒化ガリウム系高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)の開発に成功しました。今後急速な市場拡大が予想される携帯電話基地局や無線LAN(構内情報通信網)などにこのトランジスタを使用することにより、これら無線通信システムの低消費電力・省スペース化が実現可能となります。弊社では、3月27日より行われる「2003年春季 第50回応用物理学関係連合講演会」にて、本成果を発表いたします。
携帯電話基地局などの無線通信システムは通信容量の増大に対応する多チャネル化のためにチャネルあたりの消費電力の低減化・省スペース化が求められています。このため、システム内で大きなウェートを占める送受信装置の低消費電力化・高密度化が要求されています。送受信装置に用いられるパワートランジスタの増幅特性を改善することにより、送受信装置の増幅回路の段数を減らすことができ、これらの市場ニーズに対応することが可能となります。
今回開発に成功したパワートランジスタは、SiC(シリコンカーバイド)基板上に作製した窒化ガリウム系高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)で、増幅特性の指標である相互コンダクタンス(gm)は、1mmあたり500mSを達成しました。従来の弊社の最高値327mSを大幅に更新し、世界最高レベルの増幅特性となりました。
増幅特性の改善は、ゲートをリセス(凹)構造に加工しT型のゲートを形成する技術とゲート長の短縮化およびデバイス構造の最適化設計により実現しました。なお、周波数特性は最大動作周波数(fmax)126GHz、電流利得遮断周波数(ft)67 GHzを実現しています。
弊社では今後、本トランジスタの小型、低コスト、高出力化に取り組み、携帯電話基地局及び無線LANなどに向けた製品化を進める計画で、2003年後半にサンプル出荷を開始する予定です。
本開発は、名古屋工業大学 極微構造デバイス研究センター 江川孝志教授との共同研究開発により行いました。経済産業省のプロジェクトである超低損失電力素子技術開発研究体の研究として、財団法人新機能素子研究開発協会を通じて新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて行ったものです。
なお、弊社では本開発成果を2003年3月27日(木)〜3月30日(日)、神奈川大学横浜キャンパスにて開催される「2003年春季 第50回応用物理学関係連合講演会」で発表いたします。
講演番号:30p-ZF-6
講演題目:リセスゲートGaN-HEMTにおけるゲートオフセット効果
【デバイスの構造】

【用語解説】
- T型ゲート:
- 通常は断面がI型のゲートが用いられる。しかし、電力トランジスタのように、電力出力を得るため、ゲート巾が広く設計されるとゲート電極の長さが長くなり、ゲート電極の抵抗が高くなって、動作周波数を劣化させる。このため、ゲート電極の断面をT型とし、断面積を増加させることで電極の抵抗を減少する方法が用いられる。
- リセス構造:
- リセスとはくぼみ(凹)のことで、HEMTのゲートを凹部の中に形成した構造。トランジスタの寄生抵抗を大きく低減する効果があり、素子の増幅特性、高周波特性を改善できる。しかし、オングストローム(一億分の1cm)レベルの高精度なエッチング精度と、素子特性を劣化させないように、半導体結晶に損傷を与えないことが必要で、その加工技術の困難さにより、GaN-HEMT素子においてほとんど用いられてこなかった。
- 相互コンダクタンス:
- 増幅特性の指標である相互コンダクタンスは、入力電圧振幅に対する出力電流振幅の比(ΔI(出力電流振幅)/ ΔV(入力電圧振幅))で定義され、増幅素子で重要な増幅率(利得、ゲイン)に関係する。これまでの世界最高データは402mS/mm(米国イリノイ大学)であった。沖電気は、今回T型リセス構造HEMTで500mS/mmで世界トップクラスの特性を達成している。
- mS/mm:
- ミリメートル当たりの相互コンダクタンスを現す単位。ミリジーメンス パー ミリメートルと呼ぶ。
- 最大動作周波数(fmax):
- トランジスタを電力増幅器としたときの最大動作周波数。遮断周波数に比例するが、さらに、素子の寄生抵抗を低減しないとこの値を改善できない。今回は、ゲート電極の断面をT型にすることなどにより、ゲート電極抵抗を低減した。
- 電流利得遮断周波数(ft):
- 全ての増幅素子は高周波で動作させると、電流を増幅する増幅率が低下してくる。この増幅率が1(増幅しない)になる周波数を電流遮断周波数と定義され、素子の高周波性能を示す指標として使用される。
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